文化住宅が好きです。
音、洗濯物、食事の匂い―自分の家と隣の家との境界があいまいで、大きな家に住んでいるようです。
高校生のころから20代後半まで、箕面にある「あたらし荘」という文化住宅に住んでいました。
外国人、母子家庭、元ヤクザのひと、素性のわからない人、いろんな人がいました。
近所づきあいというより、生活していたら自然と顔を合わす人たちでした。
洗濯機は外にありましたし、物干しはほぼ共有。夕涼みの場も同じでした。
隣の家のおかずの匂いはうちにも広がります。
上の人の深夜に帰ってくる扉の音が、うちの部屋のふすまを揺らします。
住みながら、そこをずっと出たいと思っていました。
たぶん、みな出たがっていたように思います。
そして出てみて、あの時の音や匂いをとても懐かしく思い出します。
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人は、出たくて戻りたい場所を「実家」というのかもしれません。