視覚は判断の材料になることが多いのに比べると、‘匂い’ は、心により繋がっていると感じます。
子供の頃、秋の夕方に外を歩くと田んぼの脇で藁を燃やしていることがよくありました。
遠くの方までその香りは広がって、夕暮れの色とその匂いが混ざると、なんとも物悲しく懐かしい気持ちがしたものです。
インドでは、田舎で燃料として使われる牛糞を焼いた匂いが思い出されます。
土と牛糞を混ぜて作った燃料の匂いがインドの郊外には立ち込めていて、太陽に焼かれた地面の匂いと一緒に大地の存在を頼もしく感じました。
イギリスでは、多くの人が香水をつけていました。道を歩いていて、前から歩いてくる人とすれ違うと、時間差でその人の雰囲気が香ります。 見た目どおりの香りがすることもあれば、意外な香りに包まれることもあって、その違いを楽しんでました。
何か考え事をしているときに、例えば金木犀の香りだったり、知らない人のつけている香水の香りに包まれると、思考は瞬時にほどけて、懐かしい心の風景に連れて行かれます。
香りは心を開く扉のように思えます。